仮想通貨の世界の理想と現実~秘密鍵をどう護るのか~(前編)

コラム
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 ここ10年ほどで急速に成長した、仮想通貨の代表であるビットコイン。新型コロナウィルスの感染拡大により、ビットコインが安全資産だとして投資家から注目を集めているというニュース※1も出てきています。本当かどうかは定かではありませんが、国や世界情勢にも左右されないボーダレスな"通貨"として、今後価値は上がっていくのでしょうか。
 今回のテーマは、仮想通貨の中でも改めてその価値が注目されつつあるビットコインの情報管理です。ビットコインを取引する上で絶対に護らないといけない情報は秘密鍵。今回は、ビットコイン向けのアプリなどの開発を行っている株式会社AndGo代表取締役の原 利英さんに、秘密鍵の管理の世の中の現状と課題をお聞きし、より良い管理方法を探っていきます。前編ではまず、そもそもビットコインとはどういうものかを確認し、後編では秘密鍵の管理について検討していきます。

※1.JCASRニュース『ビットコインが「安全資産」になる日は来るのか 新型コロナで問われる立ち位置』(2020,2.8)。

株式会社AndGo 代表取締役 原 利英さん

1.ビットコインの始まりは、突如インターネット上に投稿された“ポエム”?

藤田:2017年あたりに急速に成長し、何かと話題となったビットコイン。普段使っているお金と違い、目に見えないものなのでよく分からない、という人も多いと思います。改めてお聞きしたいのですが、ビットコインとはどのようなものでしょうか。

原 利英 さん(以下、原さん):ビットコインには色々な解釈がありますが、一般的にビットコインの始まり、と言われているのは、2008年10月31日に突如インターネット上に投稿された、ビットコインに関する”ホワイトペーパー”です。いわゆる、簡単な論文、みたいなものでしょうか。10ページほどのドキュメント(ビットコインに関する説明書)が、暗号技術が好きな人たちが集まるとあるメーリングリストに、「こんなこと考えたんだ」といきなり送られてきました。タイトルは「A Peer-to-Peer Electronic Cash System 」(PtoPの電子的なお金の仕組み)というシンプルなもの。論文と聞くとアカデミックな感じがしますが、このホワイトペーパーはそうではなくて、いわゆる”ポエム”みたいなものです。誰のチェックも入っていない、ただ自分が考えたことを書いたものをホワイトペーパーと言っています。
 したがってビットコインに関しては、学術的な論文誌から発表されたのではなく、メーリングリストに直接投稿されたのが始まりです。しかも筆者名が、正体が分からない「サトシ・ナカモト」という方。名前は日本人なのですが、実在するかは分からないそうです(笑)。
 またメーリングリストに送られたのがリーマンショック直後だったので、金融機関や政府など、巨大権力を握る中央集権的な機関への信用が薄れる人々が増えている時期でした。
 そのホワイトペーパーで「サトシ・ナカモト」が開発者を募り、実際スタートしたのはその翌年。開発者の仲間は集まったものの、もちろん「サトシ・ナカモト」の正体は不明のままでしたし、集まった人たちの正体も分からないまま。知らない人たち同士で集まってスタートしたビットコイン。なんだか面白いですね。

2.面白いのは、デジタルなのにコピーできない通貨の仕組み

藤田:面白い始まりですね。たった数枚のホワイトペーパーがこんなに大きくなるなんて不思議です。仕組みとしては、どのようなものでしょうか。

原さん:ビットコインとは、デジタルで分散的に管理されるお金です。個人的に面白いと思ったのは、デジタルなのに資産をコピーして複製できないという点です。これは分散処理の仕組みとしても新しく、その最先端の事例がビットコインなんです。

 ビットコインには色々な特長があり、たとえば技術面からいうと、偽装されないだとか、分散処理の仕組みであるだとか、そのような特長がよく上げられます。ただ社会面からみると、国が信用を与えて発行しているものではなく、プログラムのコードで発行されており、それを一応、皆が信じていて成り立っている”お金”、という点が特長です。この概念はかなり独特ですね。しかも実際に動くコードは、一人で勝手に変えることはできません。

 またビットコインの圧倒的にユニークな点は、資産の凍結が難しい点です。例えば国や会社が仮想通貨を作る場合だと、その発行母体に非難が集中するなどした場合に、その発行母体の一存でコインを無効化したり、資産を凍結することができでしまいます。しかしビットコインの場合は、中心として作る組織がないので、国レベルの大きなところが消し去りたい、凍結したいと思ってもできないんです。ビットコインが誕生してたった10年なのに、G20の議題にもなったり、国のトップレベルの会議でも議題に出るような、国際金融の仕組みに再考を迫る存在にまでなりました。影響力が半端ないですね。

3.ビットコインは、仮想通貨の元祖

藤田:国が発行する通貨は普段の生活で使用しているので使い道が分かりやすいのですが、ビットコインの使い道はどういったものでしょうか。

原さん:どう使うかは、社会の人々が決めるものですね。もともと国の発行する通貨とは違うところに価値の源泉がある存在として出てきたものなので、価値をどう認めるかも社会の人々が決めます。例えば適当な量の日本円と同等の価値があると認識しているのなら、ビットコインと日本円との交換に応じますよね。実際、現在は取引所で交換してくれています。
 こんな面白い話もあります。当初ビットコインは、技術系の人たちのためのおもちゃだったのですが、ビットコインが生活の中で初めて使われたのが、ピザを買うときでした。2010年5月22日の出来事です。今では5月22日は「ビットコイン・ピザデー」として祝われます。当時、1万BTC(ビットコインの単位)でピザ2枚が購入されました。今は1BTCが100万円と当時の1000倍の価値があり、今にしたら100億円のピザになります(笑)。このようにビットコインの価値はどんどん上がっています。なので、使うというよりストックしたくなってしまいますね。今後はストックするための資産として価値が出てくるかもしれないですね。

藤田:たった10年でビットコインの価値はかなり上がってきましたね。ところでビットコインは仮想通貨の一種ですよね。

原さん:そうですね。仮想通貨という集合があってその一つの例がビットコインです。最初の仮想通貨で、元祖・オリジナルですね。
 ビットコインの種類としては、元祖ビットコイン(BTC:Bitcoin)があり、次にビットコインキャッシュ(BCH:BitcoinCash)があって、さらにそのビットコインキャッシュが2018年に分裂し、ビットコインキャッシュとビットコインSVが出てきました。開発者が仲間割れを起こし、完全に別の新しい仮想通貨ができたみたいです。
 ビットコインのデータベースはコピーできないですが、ソースコード(仕組み)はコピーできてしまうので、様々なコインが出てきます。しかしそれに誰かが価値を認めなければ存在意義がありません。今のところ取引所でやりとりしているものは、買いたい人がいるから、値段がつけられています。
 仮想通貨が一番盛り上がりを見せたのは2017年くらいですが、そのころたくさんの種類がありました。しかし今ではもう、マイナーなコインはものすごく価値が下がっています。

藤田:他の仮想通貨との関係は何でしょうか。

原さん:ビットコインがオリジナルで、他の仮想通貨はそれの改良版ですね。オリジナルのビットコインでもやはり使いにくい部分が色々とあります。例えばデータベースは10分に1回しか更新されないので、即時決済には向かないと思う人もいます。そういった人がその問題をクリアした新しい仮想通貨を作ったりします。色々と試行錯誤してやってきましが、結局元祖ビットコインの仕組みはよく出来ており、オリジナルのビットコインに価値を認める人が多いという現状です。

4.日本はビットコインの中心地だった

藤田:ところで、海外と比べて日本のビットコイン市場はどうでしょうか。

原さん:国の文化や背景の兼ね合いもあり、ヨーロッパが元気ですよ。ヨーロッパは、国といった管理する側に対して、個人が自分の権利を勝ち取ってきたという歴史的背景や思想があるので、その思想とビットコインの相性がいいです。
 ただ日本は、不思議なことに一時期まではエコシステムの中心地でした。というのも、「サトシ・ナカモト」という日本人のような名前の人が作ったと思われていますし、初期活躍していた有名な人たちが日本に住んでいるということも理由の一つです。あとは、大規模なハッキング事件が起きたのも日本でした。マウントゴックスという世界で最初の取引所が日本の渋谷にあったのですが、そこが2013年にハッキングされて、ユーザーから預かっていたビットコインの資産を取られてしまったんです。被害総額は875万ドル以上。大きなニュースになりました。2018年にも、渋谷にあるコインチェックという取引所がハッキングされました。このようなこともあり、日本は消費者保護の観点で厳しい規制が課されるようになりました。実はこのような規制を定めることは世界でも事例が少なく、2018年当時の規制の仕組みでは日本が最先端をいっていました。本来、国が発行しているものではないのでビットコインは規制の対象ではないのですが、取引所に関しては、お客様の資産を代わりに預かっているところなので規制対象となります。

 ただ、そもそものビットコインはPtoPシステム(中央の管理者がなく、個々の端末が対等の立場でコミュニケーションをとる仕組み)であって、こういう中央集権的な存在をなくしたかったんです。つまり、中央で資産を預かって管理する仕組みを必要としないよう設計されたものだったのに、それを行う取引所という存在ができてしまったんですね。そこが事件を起こしているので皮肉です。もともとのビットコインは、そういう事件を起こさないようにするためのものでした。

 日本は、発祥の地でもあったし、創業の地でもありました。また大規模なハッキング事件でも注目されたので、一時期はビットコインの中心地と思われていました。しかし、その事件が起こったことでガチガチな規制となり、新しいことをやりにくくなってしまいました。規制は、安全を守るという良い面もありますが、規制が厳しすぎると技術発展の妨げともなります。バランスが大事です。

5.ゲノム解析と同じ、ビットコインの暗号解読の世界

藤田:なぜ、ビットコイン事業を始めたのでしょうか?

原さん:暗号の技術を社会還元したいと思い独立しました。独立して半年後、暗号技術が一番活発なのは、仮想通貨の世界だと知りました。しがらみに関係なく、新しい暗号技術をどんどん取り入れていく世界です。新しい技術がでてきたらとりあえず社会で使い、社会実験をしながらその技術を磨いていく、そのスピード感に魅了されました。
 そういった暗号技術の最先端があるのが仮想通貨。もともと大学でゲノム解析を専門に研究していました。ゲノム解析の分野は、人間がまだまだ分かっていない生命のしくみそのものが対象であり、体の設計図に相当するゲノム情報は、30億ある塩基対のうちの数%しか役割が分かっていません。その未知な世界に興味を引かれていました。ゲノム解析というのは暗号解読ですので、そこに没頭していたら、暗号そのものの技術に興味がいき、ひいては最先端の応用例としてビットコインに出会ったということです。
 もともとの専攻領域である情報科学では、数学上の構造に対し情報量という、ある意味価値のようなものを定義しています。研究領域であったゲノムサイエンスでは、ゲノムという実体のあるものに遺伝情報という世代間で引き継がれる価値が乗っていると認識されています。そして独立して扱うことになったビットコインは社会の中で価値がある存在です。
 思えば私は、これまでずっと“価値とはなにか”をテーマとしてやってきたんですね。

 (後編につづく)

【インタビュイー】
原 利英(はらとしひで)
株式会社AndGo Founder & 代表取締役CEO
天空の城ラピュタにてドーラが軍の暗号無線を独自の暗号帖「ANGO」片手に解読するシーンに痺れる幼少期を過ごした。東京理科大学にて助教としてゲノ ム解析・創薬、カオス尺度、暗号理論に関する数理面の研究を手がけた後、株式会社AndGoを創業。先進的な暗号技術の社会実装に取り組んでいる。

【インタビュアー】
藤田彩香(ふじたあやか)
文書情報マネージャー(JIIMA認定)データ保全推進研究会事務局 株式会社ボウラインマネジメント所属 企業・団体における業務効率化をサポート。主に文書・映像、IoTデータ等の活用・管理支援、データマネジメント支援サービス、データ保全サービスAmberlt(アンバルト)、文書管理系サービスの普及支援などを行っている。

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