【前編】紙文書の電子化 正しいアプローチしていますか

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 社内に溢れる資料の山……請求書、領収書の束、FAX、稟議書類など、いまだに社内は紙だらけ……なんて悩み抱えていませんか。大量の紙を保管する場所の確保も大変ですし、必要な書類を探し出すのも一苦労です。そのため、業務効率化やスペースの無駄を省く観点から多くの企業が紙文書の電子化※1を進めています。
 しかし、だからと言って、全て紙文書を電子化(デジタル化)すればいいというわけではありません。文書の特性や業務プロセスに合わせた管理、また電子帳簿保存法などの各種法律やガイドラインへの対応も重要です。
 今回は文書の電子化を進めるにあたり、前編では、そもそも何を電子化すればいいのか(電子化の判断基準)について確認し、後編では、電子化の留意点とその対処方法を検討します。

※1.JIS Z 6061では電子化とは、「紙文書又はマイクロフィルム文書を、スキャナなどを用いて電子画像化(ビットマップ)すること」と定めています。

1.そもそもの大原則。むやみに紙を発生させない

 文書に”ライフサイクル”があるのをご存じですか。人間と同じように、文書にも”人生”があります。すなわち、文書が「作成」され、「処理」され、「保管」し、参照し、活用される。そして活用期を過ぎたら記録として「保存」され、必要がなくなったら「廃棄」されます。このようなフェーズに分け、これを文書のライフサイクル※2と呼びます(図1)。

※2.文書のライフサイクルについて詳しくはJIIMA(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会)ウェブサイト「文書情報管理のイロハ~2.文書情報マネジメントの基本」をご覧ください。

図1 文書情報のライフサイクル

 電子化を検討する前に、大原則として確認しておきたいのは、そもそもむやみに文書を紙で作成しない、ということです。紙でのハンドリングは時間がかかりますし、保管コストもかかります。また、紛失のリスクも高いのです。したがって、作成時にはできるだけ電子的に文書を作成し、電子文書のまま使用して保管することをお勧めします。一方、作成時には電子で文書を作成しても、紙に印刷し、それを文書とすることもあるでしょう。しかし、「とりあえず印刷しておこう。」ではなく、紙にしておく必要があるかどうかをまず検討すべきです。このように、”紙に出すプロセスの削減”にも取り組む必要があります。

2.電子化(デジタル化)を検討する際のポイント

(1)電子化のタイミング

 では、電子化に話を戻します。そもそも電子化はいつ行うのでしょうか。紙文書をスキャンしてPDF等の形で電子化する作業のタイミングは、下記図2のように、6つあります。①受領時、②登録時(処理終了時)③保管中(活用期)④公開、共有時⑤移管時(事務所⇒外部倉庫等)⑥保存中(参照頻度は極少)です。電子化するかしないか、の判断は、ここでいう①受領時(処理開始時)と②登録時(処理終了時)以降に分けて考えるのがいいでしょう。というのも電子化の費用を考えると、一般的に②登録時(処理終了時)以降に電子化を行うと費用面でのメリットが出しづらくなるからです。したがって、①受領時(処理開始時)に電子化するのが良いと考えられます。

図2 文書情報ライフサイクルにおけるスキャニングポイント

(2)電子化のメリット

 では、実際に何を電子化すればいいのでしょうか。まずは、電子化のメリットから考えていきましょう。メリットは下記の通りです。

①業務の効率化
 すぐに関係者の間で共有できます。その場にいなくとも資料を閲覧できるのでリモートでも仕事が
 可能です。また会議などの場でも同じ文書を一度に複数人で閲覧できます。

②効率的に書類の検索ができる
 紙文書であると、膨大な資料の中から必要な書類を探すのには時間がかかります。電子化すれば、
 キーワードなどで検索ができるので検索性が上がります。

③文書保管コストや印刷の紙代のコスト削減ができる
 特に土地が高い都内の企業であると、紙の保管スペースだけでもかなりのコストがかかっています
 。そのスペースを削減すれば、その空いたスペースを他の目的で利用することも可能です。

④リスクマネジメント強化によるコンプライアンスの向上とBCP対策
 文書をしっかりと保存しておけば、万が一の訴訟対策にもなりますし、電子化して保存しアーカイ
 ブすれば災害や障害発生時に紛失することもなくなり、BCP対策となります。結果として顧客信頼
 性も維持できます。

 以上のような点が上げられますが、電子化の際には、上記のメリットと電子化の費用を比べなければなりません。

 段ボール1箱にA4の紙が3000枚入るとします。例えば、1ヶ月に1箱100円の保管料がかかるとすると、1年間の費用は1200円です。
 一方、3000枚のスキャニング費用は、例えば、A4モノクロ、1面400dpiで1枚12円とすると36,000円になります。これは外部保管30年分くらいの費用に相当します。 したがって、活用期が終わり、今後保存は必要だが、参照する機会がほとんどないならば、外部倉庫等での保存が選択されます。

3.電子化(デジタル化)の判断基準

 では、電子化するかどうかの判断基準を考えていきましょう。

(1)費用面からみた判断基準
 前述の2で述べた通り、①受領時(処理開始時)と②登録時(処理終了時)以降に分けて考えましょう。

まず、②登録時(処理終了時)以降の場合を検討します。

◆電子化費用 (より大きい) > 保管・保存費用(保管・保存期間中)であるとき、
 保存に外部倉庫を利用する場合と比べると電子化費用は割高である場合が一般的であり、全体的に
 みると電子化の判断にはなりません。

◆ただし、保管期間中の参照頻度が高いとき
 保管中の紙文書への参照頻度が高まるとその参照コストが高くなります。
 このような場合、参照コストまで含めると
 電子化費用 (より小さい) < 保管・保存費用(保管・保存期間中)+参照コスト
 となり、結果的に電子化コストの方が安くなり、電子化することでメリットが出ることがあります
 。

 次に、①受領時(処理開始時)の場合を検討します。

◆電子化費用+電子での処理費用 (より小さい) < 紙での処理費用+紙保管・保存費用(保管・保
 存期間中)+参照コスト
 であるときは、電子化することで、メリットが出ます。
 紙での処理費用は、紙費用もさることながら、文書の持ち回り等の運用コストが電子に比べると圧
 倒的に大きく費用がかかることが多いです。そのため、処理開始時から電子化すればコストメリッ
 トが出ることが多くなります。また、紙でハンドリングすると紛失コストや、処理時間が長くかか
 るなどのデメリットもあります。したがって、受領後に処理がある場合は、電子化することでメリ
 ットが出ます。

 以上のように、電子化の重要検討ポイントは、「保管中の紙文書を、活用しているか」、「今後活用するかどうか」、また、「受領後に処理があるかどうか」になります。

(2)内容面からみた判断基準
 では、電子化の対象となるものはどのような書類でしょうか。上記で述べた「活用」「処理」の観点も踏まえて考えていきましょう。

 ①活用中であるか。
  問い合わせ応答により参照回数も多く、比較的短時間で参照できることが必要な場合
 ②法律で紙を原本とする指定がない場合
 ・社内運用のみであれば、電子データに切り替えるべきです。
 ・電子でもよいが、法律等で特段の指定がある場合は、紙運用と電子運用のコスト、リスクメリッ
  トを比較する必要があります。
 ③法律で紙を原本とした場合に、電子化に対し特段の指定がある場合※3
  紙運用と電子運用のコスト、リスクメリットを比較する必要があります。
 ④価値があるか
  紛失は絶対に許容できないのか、紛失しても許容できるレベルなのか。紙でのハンドリングは紛
  失リスクがあり危険です。そのような場合は、紙が原本であっても、参照用には電子を使用しま
  す。
 ⑤参照時間余裕
  参照頻度が少なくても、参照要求から参照できるまでの時間に余裕がない、短時間応答が必要な
  場合は、電子化します。

※3.国税関係文書については、国税庁「電子帳簿保存法上の電子データの保存要件」参照してください。

 では例として、契約書が紙の場合について確認してみます。
 ①活用中であるか
  契約締結後、契約期間が終了するまでは活用期間です。非常に長期に及ぶこともあります。
 ②法律で紙を原本とする指定があるか
  電子でもよいが、法律等で特段の指定があるので、紙運用と電子運用のコスト、リスクメリット
  を比較する必要があります。電子運用の方がコストがかかる等で不利な場合は、紙を原本として
  、電子化データを参照用に使用します。
 ④価値があるか
  契約書の場合、価値は極めて高いので、紙原本でも参照用に電子化します。
 ⑤参照頻度余裕
  社外からの問い合わせの場合、時間的に余裕がないので、そのようなことが多い場合は電子化が
  おすすめです。
 以上のように契約文書については、紙を原本としても通常電子化のメリットが出ます。

 この他に発注書や請求書、領収書などの電子帳簿関連文書、また製品図面や技術文書、品質記録などの業種別文書などは電子化する効果が高いと言われています 。

まとめ

 今回はまず、文書情報のライフサイクルについて言及し、電子化をする際のタイミングについて確認、6つのスキャニングポイントがあることを述べました。次に電子化するメリットについて触れ、費用面からみた判断基準について、そして内容面からみた電子化の判断基準について5項目を示しました。

 後編では、いざ電子化しようとするときの留意点とその対処法について検討していきます。

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