広がっていく“衛星データ”の利活用。その時に重要となるのは?(前編)

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 情報が溢れる時代。様々なデータがある中で、今回扱うテーマは人工衛星から得られるデータ、すなわち”衛星データ“です。衛星データというと、ちょっとわかりにくいですが、天気予報やGPSなど日常生活でも使われる身近なデータです。
 今回は、その衛星データの利用を普及させるためのプラットフォーム『Tellus(テルース)』を開発したさくらインターネットの担当者にインタビューし、そもそもTellusとは何か、衛星データはどのように発生し、管理されて私たちのもとに届くのか、ビッグデータ社会において今後”衛星データ”がどのように使われ、発展していくのか、また衛星が今後も増えていくことに対して生ずる課題などを伺います。
 前編では、Tellusの概要や衛星データの種類、そしてそれらは現状どのように使用されているかを伺い、後編では、今のTellusの課題や衛星データの将来について語っていただきます。

1.『Tellus』は、宇宙産業を基幹産業とするための第一歩

藤田彩香(以下、藤田):インタビューをさせて頂くにあたり、Tellusのことを調べていましたら、「宙畑(そらばたけ)」という団体があるようですね。Tellusのマガジン記事を書いていたりと、色々とTellusのPR活動をやられているようです。この「宙畑」とは何でしょうか。まず、こちらについてお聞かせください。

さくらインターネット 牟田 梓さん(以下、牟田さん):「宙畑」とは、衛星データプラットフォーム「Tellus」公式のメディアとして情報発信をしている団体です。ただ、もともとはTellusと関係ないところでできた団体で、「TELSTAR(テルスター) 」という有志活動で作った学生団体が発端です。私もこのTELSTARに所属しておりました。この学生団体は、進路選択の重要な時期である中高生をメインターゲットとして、 宇宙フリーマガジン『TELSTAR』の発行を中心に、 ウェブサイト・SNSによる情報発信やイベントなどの広報活動を推進しています。TELSTARは2013年に設立され、学生団体としては大きく成長してきました。ただ、その先、が必要でした。学生が卒業した後も宇宙ビジネスとして活躍できる場です。そのような場を作り、宇宙ビジネスを広げていきたいという想いから「宙畑」ができました。
 そして2018年6月ごろ、Tellusの話があり、その公式メディアとして参画しないか、という依頼をいただきました。もともと、宇宙産業を日本の基幹産業としたい、という想いがあったので、宙畑にとってはとてもありがたいお話でした。
 宙畑の主な活動としては、TellusのWebメディアとして、Tellusが扱う衛星データの利活用をメインに、宇宙ビジネスの現状や衛星データの利用事例などを記事として発信しています。

  藤田:『TELSTAR』は私も読ませていただいたこともあり、学生団体が作ったとは思えないほどとてもクオリティの高い宇宙雑誌ですね。その次のステップとして「宙畑」が誕生したのは、宇宙ビジネスを広げるための第一歩ですし、すでにその活動をビジネスとしてやられていることにとても感心します。では、早速ですが、いま活動されている「Tellus」についてお聞かせください。

さくらインターネット 山崎 秀人さん(以下、山崎さん):では、今度は私からこのプロジェクト誕生の背景をご説明いたします。もともと宇宙産業は、政府予算が業界の大きさとなっており、閉ざされた“宇宙村”と言われていました。しかし、それでは宇宙産業が発展しないということで、経済産業省を中心に政府にて、民間が適切に稼げるビジネスにしないと産業にならないという議題が出ました。そうならなければ政府の目指す「宇宙産業の基幹産業化」には到底到達しません。ちなみにこの議題が出たのが2016年くらいですね。当時の政府の話し合いの中で、経済産業省のリーダーシップで、大規模な開発予算を投下することも議論になったときいていますが、やはり難しいという結論に至ったようです。では、日本の宇宙産業を活性化するにはどうしたらいいのでしょうか?

 もともと私は、JAXAで衛星の利用関係の仕事をやっていたので、これまで撮り溜めていた衛星データがJAXAや政府機関にあることを知っていました。そこで面白いと思ったのは、その衛星データを開放し、全てクラウド上に並べてしまうのはどうか、ということです。
 これまで、衛星データはデータ量が大きすぎるのでクラウド上に並べることはできず、JAXAも一部のデータはお客様からのオーダーがあったら処理をするというやり方でやってきました。しかし、データをお客様のもとに渡すのに時間がかかってしまい、即時的にデータを使えないこともあり、サイエンス分野以外での利用が進みませんでした。
 では、仮にデータフォーマットを定めて、一度に全部を処理し、クラウド上に並べ解析ツールを揃え、さらに政府衛星データの使用を無料にしたらみんな衛星データを使ってくれるのではないか、と考え、これを実現させたいという想いがありました。

 そういった矢先に経済産業省が、政府衛星データのオープン&フリー化および利用環境整備事業の検討をはじめました。委員会のメンバーには、座長にiモードを作った慶應義塾大学の夏野先生、DeNAの守安社長など、IT系の方が多くいらっしゃいました。そして委員会で議論した後、政策としてやろうという結論になったそうで、入札の結果、さくらインターネットが実施することが決定し、事業がスタートしました。これにより、宇宙産業を基幹産業とするため、これまでの受注発注だけのやり取りではなく、ビジネスとして自分でお金を稼ぐという仕組みを実現させていく第一歩となりました。
 正直言うと、今でも宇宙産業のメインはハードウェアです。例えばロケットを作ったり、宇宙ステーションを作ったりするなどですね。それを企業が受注し、国に納める。つまり、利用のメインプレイヤーは企業ではなく、国や国研(国立教育政策研究所)なんです。そのような発注受注の関係だとそれ以上の利用が広がらないですよね。

藤田:国や企業の関係だけではなく、一般の人が衛星データを利用して、さらにビジネスまでできるというのは日本ではTellusが初めてなのですね。

山崎さん:そうですね。そこで、さくらインターネットという会社でできたのは大きな意味があったと思います。さくらインターネットは、スタートアップを支援する事業もやっていて、“お客様が成功したら、自分たちも成功する”ということをモットーとしています。スタートアップのような方々と、これからチャレンジしていく会社と一緒に成長していくような会社なんです。そういった意味で、これから衛星データの活用をビジネスとして始めようとするベンチャーの方々と一緒に、こちら側(宇宙ビジネス)も成長していくという我々の思想が、さくらインターネットの思想と合致していると思います。

2.意外と身近な衛星データ。地上データと掛け算することでビジネスの利用が広がる

藤田:では実際に、Tellusはどのようなデータを扱っているのでしょうか。

牟田さん:そもそも衛星データは色々な解像度があります。一般的には解像度が低いものが悪いと言われがちですが、衛星データに関してはそれは当てはまらず、解像度が荒ければ広い範囲をとることができるので、そういうマクロの情報を得たいときには適しています。
 扱うデータとしては、細かくて狭い範囲を撮っている衛星データ、例えば車や道路の状況を知るために使用する衛星データから、幅広い範囲を撮っている衛星データ、例えば土地の利用状況や建物の使用状況を知るために使用する衛星データまで、幅広いラインナップがあります。

 データの出所としては、経済産業省のプロジェクトでNECが開発したASNARO-1やASNARO-2、JAXAのプロジェクトで開発したALOS-2やつばめ、AVNIR-2があり、これらをデータとして入れてもらっています。またデータの種類としては、光学画像とSAR画像の2種類があります。光学画像は携帯の写真と同じで、目で見たのと同じように見える画像(図1)、そしてレーダーのSAR画像は、衛星から電波を発してその跳ね返りによって現れる画像です(図2)。それらのデータを解析して分かりやすくしたものが、日常生活でも馴染みのある、降雨量や地表面温度などのデータとなります(図3)。

藤田:衛星データから得られたデータはどういった目的で使用されるのでしょうか。

牟田さん:例えば衛星データは、光学データですと都市計画に利用したり、また光学データを組み合わせると3次元のマップにすることができるので、その土地の標高が分かったりします。また得られた光学データから雲の動きをみることによって日射量を計測し、太陽電池パネルをこれから発電できるかどうか、効率的な立地を選定するために使用されたりします。

 Tellusでは、衛星データだけではなく、地上データを組みあわせていくことが大事だと思っています。例えばRESASという地上データは、地域の経済統計が分かるもので、どこの市町村にどういう会社があり、どういう産業でどれくらいのお金が回っているか、またインバウンド情報が得られるのでその市町村の観光の流れが分かったりします。そういったRESASの情報が公開されているので、それをTellusに搭載されているほかの衛星データと掛け算することで、面白い知見が得られないか、ということを見ています。
 また、人の動きが分かる人流という地上データがありますが、例えばゲリラ豪雨のときの人の動きを調べたいというときは、雨や雲の状況は衛星データから見て、人の動きは人流という地上データから得ることができます。そのようにデータを組み合わせると、タクシーはどこにいたら拾いやすいんだろう、なんてことも分かります。
 衛星データはマクロな情報が得られるところは良い点ですが、どうしても我々のビジネスで使用できるデータから少し離れてしまいます。そこで地上データを結び付けることによって新たな価値が生まれるのではないかと考えています。

藤田:なるほど、二つのデータを組み合わせることでビジネスにも有効に使えることができるので、自治体や企業による使用の幅は広がっていきますね。

牟田さん:そうですね。どなたでも、ユーザー登録をしていただければウェブサイトで衛星データをご覧いただけます。簡単に見ることができるので、見たいと思ったときに見られなかった衛星データが、Tellusを使うことで、見たいと思った瞬間に衛星データを見て、見たい場所を見られるようになりました。こういった環境づくりを目指しています。Tellusのサイトは2019年の2月にオープンし約11カ月が経ちましたが、ユーザー自体は1万2千人を超えたところまで登録していただいています。

藤田:どういった方が登録し衛星データを閲覧しているのでしょうか。

山崎さん:25歳~44歳と結構若い方が多いですね。ちなみに、”宇宙村”の年代が40代~50代と言われています。Tellusユーザーの人口分布が若いので、これからの宇宙産業に希望がみえますね(笑)。また、ユーザーの30%くらいが法人利用だと思うのですが、そのうちの50%が宇宙産業以外で働いている方が来てくださっています。宇宙独特のソフトパワーというか、人を惹きつける力があるんですかね、とりあえず関心は持ってもらっています。

3.Tellusが受け取る衛星データはどこからきているのか

藤田:このような衛星データはどこで管理されていてどうやって手に入れているのでしょうか。

山崎さん:まず、衛星データを受け取る流れから説明しますと、地球を回っている衛星からのデータを受け取り、その生データをマスターデータとして国が保管しています。JAXAの衛星であれば筑波宇宙センター等、JAXAの施設内で保管しています。そしてそのマスターデータの処理プロセスが始まり、処理されたデータがポータルサイトや様々なインターフェイス経由で提供されます。
 そうなるとユーザー側は、衛星データをリクエストしてダウンロードするというプロセスを踏まなければなりません。これでは時間がかかりますし、データが重いのでローカルのPCだとなかなかデータを溜めることができません。そこで、そのプロセスをクラウド側で引き取ってしまおうというのがTellusです。
 ただ、扱うデータが大きいデータなので、小さいデータをタイル化する処理は、我々が持っている北海道の石狩データセンターで行っていますね。

藤田:衛星データを見るにはTellusはとても便利ですね。ところでユーザーからすると、Tellusで全ての衛星データが見られるといいなと思うのですが、そこらへんはいかがでしょうか。

山崎さん:おっしゃる通り。ログインしたら全てのデータを見られればいいのですが、一方でビジネスでデータを有償で提供している方もいるし、もっといえば、日本以外にもヨーロッパやアメリカの政府機関が持っているデータもあります。違う国なので国益が関わってくる場合もあります。そこを一個一個交渉して、Tellusに出してくれませんか、ということをしているので、なかなか一朝一夕にはできないです。ユーザーの立場からするとどのプラットフォームを使おうが世界中の衛星データを見られれば最高なのは当然なので、そこを目標にはしています。

牟田さん:データセンターやクラウドなどのインフラに関してはさくらインターネットが長年やってきている部分なので、強みを発揮できるのではないかなと思っています。

【後編に続く】

【インタビュイー】
さくらインターネット株式会社
山崎 秀人(やまざきひでと)
xData Alliance Project シニアプロデューサー
オーストラリア国立大学修了。2001年宇宙開発事業団(現:JAXA)入社。国際交渉業務、ALOS(だいち)の防災利用事業、はやぶさプロジェクトの帰還業務に従事。2018年10月よりクロスアポイント制度によりさくらインターネット株式会社に出向し、現職。

牟田 梓(むた あずさ)
xData Alliance Project AllianceBusiness Groupプロデューサー
東京工業大学修了。学生時代は研究室で超小型衛星開発に従事しながら、NPO法人大学宇宙工学コンソーシアムにて学生理事を務める。卒業後は日本電気株式会社に入社。地球観測衛星の技術者として6年間従事したのち、海外への衛星拡販を担当。現在は、さくらインターネットに出向し、経済産業省からの委託事業として、衛星データプラットフォーム「Tellus」のビジネス開発を行う。また、宇宙ビジネスメディア「宙畑」にて企画・編集を担当する。

【インタビュアー】 藤田彩香(ふじたあやか)
文書情報マネージャー(JIIMA認定)データ保全推進研究会事務局 株式会社ボウラインマネジメント所属 企業・団体における業務効率化をサポート。主に文書・映像、IoTデータ等の活用・管理支援、データマネジメント支援サービス、データ保全サービスAmberlt(アンバルト)、文書管理系サービスの普及支援などを行っている。

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