文化財の魅力を最新デジタル技術で発信。現在、そして未来へと受け継ぐために重要なこととは。

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 今回取材をさせていただいたのは、株式会社サビア 代表取締役の奥村幸司さんです。古くから受け継がれた文化財と最新のデジタル技術の融合で、現代に、そして未来へと、文化財の魅力を保存し発信する活動をされています。最近では、2020年1月18日にオープンするアーティゾン美術館のリニューアルプロジェクトにも携われました。
 日本の長い歴史の中で、文化的活動の中で生まれた貴重な文化財は、古くから大切に保護され伝えられ、現在、未来へと繋がっていきます。そして“繋がる”ために必要なのが文化財の”保全”です。保全されなければ失ってしまいます。したがって、最新デジタル技術を使って生み出したデータもしっかりと保全されなければなりません。
 今回は、株式会社サビアの活動の内容はもちろんのこと、最新技術を駆使して生み出された大切なデータがどのように管理されているのか、されるべきか伺い、検討していきます。

1.優れた技術でデジタルアーカイブすることで、芸術と科学の融合が生まれた

藤田:御社のホームページを拝見すると、「国内外の文化財・美術品のデジタル化からアーカイブ化・コンテンツ化までを一貫してサポートするデジタルアーカイブソリューションカンパニー」と書かれておりますが、具体的にどのような事業をされているのでしょうか。

奥村幸司さん(以下、奥村さん):スキャナーの開発・販売、文化財や絵画などのスキャニングサービス、デジタルデータの活用のためのシステム・ソフトウェアの開発などを行っております。特長としては、非接触で、また安全な光であるLED光源等でスキャンをするため、文化財に優しい状態で撮影することが可能なことです。また、超高精細のスキャニングが可能なため、色情報を鮮やかにとることができます。色再現度は1.6と高く、デジタル化後の色調整は必要としない高い色再現を可能としています。
 スキャナーの種類としては、照明の当て方をコントロールし両側から撮影、表面の色彩情報と凹凸情報を同時に取得・生成する2.5Dスキャナー、またガラス乾版撮影用に特化した光透過型スキャナーもあり、ガラス看板で写真を撮っていた時代にも対応しています。さらに、美術品や工芸品などを3次元計測し、フルカラーの3次元CADデータをご提供する3Dスキャンサービスも提供しています。
いずれもカメラより色情報がたくさんありレンズ収差が少ないので、色やかたちの情報をたくさんとることができ、原画に忠実に再現できます。
 このような技術で国内外の文化財をスキャンし、デジタル化をしています。対象物は屏風や油絵、障壁画など様々で、被写体に合わせてスキャナーを改造し対応しています。中には劣化の激しい文化財もありましたが、被写体を傷めることなくスキャンできるので、この技術はとても喜ばれます。主に美術館や博物館、お寺の方々と仕事することが多いですね。

藤田:まさに、昔と今、そして未来へとつながる重要なお仕事ですね。そもそもなぜこの事業がスタートしたのでしょうか。

奥村さん:もともとは京都大学で研究目的として開発された技術で、そのスキャニング技術をベースに起業しました。それまではモノづくりのための測定の用途でスキャニングしていましたが、それだけではなく、芸術にも使いましょう、ということになりました。これが、元々のコンセプトです。スキャニングしてその画像を表示し、できた画像を配信し、展示する。優れた技術でデジタルアーカイブすることで、芸術と科学の融合が生まれました。

2.表面の細かい凹凸まで再現。作品の品位を傷つけず、忠実に再現することが重要

藤田:素晴らしいですね。では、これまで様々な文化財をスキャニングしてきたと思いますが、そのデータをどのように活用しているのでしょうか。

奥村さん:まずは研究用に、高精細画像を見てどういうタッチで描かれているのかを分析します。顕微鏡だとピンポイントでしか見られませんが、スキャンをすると劣化具合も分かるので、美術館で展示した後と前でどれだけ劣化したかを比較して見ることもできます。
 そして展示用としてもこのスキャニング技術が活躍します。例えば泉屋博古館所蔵の二条城行幸図屏風の撮影です。700年以上前のものをとても忠実に、緻密に再現。高精細デジタル化することにより、肉眼で見るよりもより詳細に、当時の人々を浮かび上がらせることが可能となりました。さらに修復前、修復中、修復後にスキャンを実施。どういった制作方法で描かれたかまで調べました。
 もう一つデジタル展示として印象深いのが2011年7月22日〜9月16日に京都大学井手研究室とともに実施した仁和寺観音堂デジタル化プロジェクトです。仁和寺観音堂の保存修復に関わるデジタル化を行いました。そのスキャン画像を用いて、2018年1月〜3月、東京国立博物館にて「仁和寺と御室派のみほとけ — 天平と真言密教の名宝 — 」と題し、弘法大師空海ゆかりの三十帖冊子をはじめとする仁和寺の寺宝の数々や、真言宗御室派の秘仏が一堂に会する展覧会が開催されました。その展覧会で、この観音堂の再現展示を実施。高精細画像を使用して壁画や柱を再現し、観音堂内部は幅15m、奥行6m、その中にある須弥壇の壁画は幅10m、高さ4mという、これまでの中で最大規模の空間再現を実現しました。この作業には、画像処理に約1週間、印刷に約2週間、壁に貼り付ける作業に10日間ほどかかり、これまでにない規模の展示となりました。

藤田:とても壮大なプロジェクトですね。今、力を入れていることは何でしょうか。

奥村さん:先ほども述べましたが、色彩情報と同時に、表面の凹凸も併せてデータとして取得する2.5Dスキャナー技術です。石橋財団コレクションのルノワールやモネの2.5Dレプリカも作りました。さらに今年はファブリック系の展示会にも出展し、レース生地をスキャンし印刷して形を再現しました。質感や綿の粗さも再現させていきたいと思っています。

藤田:様々な文化財をスキャンされてきたと思いますが、スキャニングの際に気を付けていることは何でしょうか。

奥村さん:やはり、作品の品位を汚さない、維持することです。なので、文化財に優しい状態で、忠実に再現することが重要なのです。仏画などはなかなか使用許可が下りなかったりします。  仁和寺は、光孝天皇の発願で建てられ始められた皇室と繋がりの深いお寺ですが、かなり寛大に使用許諾を頂きました。

藤田:一番印象に残っているスキャニング作業は何でしたでしょうか。

奥村さん:ブリヂストン美術館がリニューアルされ、2020年1月18日に再館するアーディゾン美術館とともに行ったプロジェクトです。これまでブリヂストン美術館が展示していた、クロード・モネやピエール=オーギュスト・ルノワールの作品を集めた「ベスト・オブ・ザ・ベスト」のほとんどをスキャンさせていただきました。印象に残っているのは、ルノワールによる女の子の絵の作品『すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢』です。薄塗なのにグラデーションが豊ですが、その色鮮やかな凹凸まで再現しました。高精細画像でとると、こういう絵の美しさがより際立ちます。

3.スキャンしたデータこそ、しっかり管理されないといけない

藤田:これまで色々とスキャニングをされていたと思いますが、月にどのくらいのデータが発生しているのでしょうか。

奥村さん:月にもよりますが、1ヶ月で10テラくらいでしょうか。20テラで2000枚ほどですが、納品データにすると倍になります。

藤田:そのような膨大なデータを、納品後はお客様の方ではどのように管理されているのでしょうか。

奥村さん:金庫や倉庫に保管されていますね。貴重な文化財のデータなので、しっかりとした管理で保存していてほしいです。納品する際は、一つはバックアップ用として渡すので、同じデータが入っているものを二つ納品します。しかし、各館、各団体によって納品の方法や管理の方法が違うので、遠隔保管までされているかどうか。
 こちらとしては、納品方法はスタンダードであった方がいいですね。渡すときのメディアもそれぞれで、規格も定まっていないのでそのあたりの基準があいまいです。納品形態は統一されていた方がいいです。
 また、担当者が短期間で変わってしまい、納品したデータの確認がしっかりなされないことも問題です。高級な、貴重な作品の画像は、しっかり読み取れているかを確認してもらわないといけないですが、それを確認できる人が少ないのです。つまり、画像を評価できる人が少ないのが現状です。スキャナーの発展によって、高精細画像をとることが可能になりましたが、画像を評価できることに加え、その画像の質や量をみて、バランスのいい管理方法が分かる人もいてほしいですね。そのあたりでリードする人が出てきてほしいです。
 一番怖いと思っているのが、管理に困っている、という声がないことです。担当者はデータの受付業務に追われていて、その保存方法まで手が回っておらず、今の管理でよいかどうかを考えることすら至っていないのが現状です。納品する側としては、納品の方法からその管理まで、一貫した管理をしてほしいと思っています。

4.何よりも重要なのは、データの”保全”

奥村さん:弊社のスキャニング技術は、今後ますます需要は増えていくと思います。
 複数回とった画像で凹凸画像を作りますが、このとき、元データの数倍情報が発生するので、一気に情報量が増えます。今後も、国内外の重要な文化財をデジタル化し、その魅力を伝えていく活動を広げていきたいですが、その際に何よりも需要なのが、そのデータの保全。しっかりした管理体制になっていなかったためにデータが消えてしまったら、未来へと伝えていくことができなくなってしまいます。ですので、データの管理も重要であることをお客様に伝えていきたいですね。
 ちなみにこれは余談ですが、私たちもデータ消失に関して非常に怖い思いをしました。前のオフィスが鴨川の近くにあったのですが、鴨川が氾濫しそうになり、危うくオフィスが浸水しそうなことがありました。その当時はデータを保存していたHDDが地下室にあったため、ヒヤッとしました。思わず真夜中なのにオフィスまで様子を見に行ってしまいました。大事なデータを管理する場所もしっかり考えないといけないですね。

まとめ

文化資産の価値を蘇えらせ、現在へと伝えていく。それはとても重要な役割です。しかし、”伝えていく”その前提にあるのは”保全“することです。その大切さも忘れてはいけません。

【インタビュイー】
奥村 幸司 氏
(おくむら こうじ)
株式会社サビア 代表取締役
最新のデジタル技術を駆使し、国内外の文化財・美術品のデジタル化からアーカイブ化・コンテンツ化までを一貫してサポートするデジタルアーカイブソリューションカンパニー。高度なスキャニング及び解析技術をベースに、国内外において寺宝・美術品・文化財等10000点以上の高精細デジタル化を実施。
最近では、2020年1月18日にオープンするアーティゾン美術館のリニューアルプロジェクトにも携わっている。

【インタビュアー】
藤田 彩香(ふじた あやか)
文書情報マネージャー(JIIMA認定)。データ保全推進研究会事務局 株式会社ボウラインマネジメント所属 企業・団体における業務効率化をサポート。主に文書・映像、IoTデータ等の活用・管理支援、データマネジメント支援サービス、データ保全サービスAmberlt(アンバルト)、文書管理系サービスの普及支援などを行っている。

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