【前編】1日に写真は2000枚!? フリーランスとして働く写真家に聞く! データ管理の方法と課題。そして理想の保管方法とは?

インタビュー
データ管理
 ここ数年、テレビや新聞で「働き方改革」という言葉が多く聞かれると思います。時間や場所にとらわれず働くことができる「フリーランス」は、労働減少に歯止めをかけられる有効な手段の一つとして注目されている働き方です。このような近年の流れに沿うように、フリーランスとして働く方も増えてきました※1
では、いざフリーランスで働くということになった場合、何に注意しないといけないでしょうか。どうやって案件を取ってくるか、不利な契約にならないようにする、スケジュール管理をしっかりする、または資金繰り、確定申告など色々とあると思いますが、それらの土台となるのが”データ管理”です。法律で保管期間が決まっているものもありますので、個人といっても企業と同じようにデータ管理が必要です。
もしも、納品前のデータが漏洩、消失したら、どうなるでしょうか。損害賠償を請求される可能性もあります。データが溜まってきたらとりあえずPCに、とりあえずHDDに、とりあえずSSDに保存しておいて、管理方法は後回しにしよう、なんてことはないでしょうか。
今回は、フリーランスの方のデータ管理の”現状”をお伝えし、どのようなデータ管理がいいのかを検討すべく、実際にフォトグラファー兼編集者としてフリーランスで活躍されている石川望さん にお話しを伺いました。前編では、そのインタビュー内容を紹介し、今困っているデータ管理の課題などを確認、後編では、安全・安心なデータ管理の方法を検討します。

※1.フリーランスの人口は、2015年時点では913万人に対し、2018年時点では1,119万人と、その成長率は労働力人口比率で17%と増加傾向。「【ランサーズ】フリーランス実態調査2018年版

1.「データは絶対に失ってはならない。」実際に行っているデータ管理の方法とは?

藤田彩香(以下、藤田):普段、石川さんはフォトグラファーとしてご活躍されていますが、実際にどのような内容のお仕事をされているでしょうか。

石川 望(以下、石川さん):写真家としての撮影はもちろん、編集者としても仕事をしています。Webや雑誌の編集です。特に多く手掛けるのが自転車の雑誌。例えば自転車メーカー「ブリヂストンサイクル」のブランドブック(ムック本)「Bicycle for Better Life by BRIDGESTONE GREEN LABEL(玄光社・A4変型判 128ページ/2017年11月16日発売)」で企画編集統括及び撮影を担当しました。そのほか、地方自治体と連携し、その土地の観光活性化プロジェクトに参加したり、旅行会社と組んで旅と自転車をテーマにした写真のワークショップツアーを開催したりしています。

藤田:幅広く仕事をされていますね。では実際に撮影となると、1回の撮影でどのくらいの枚数を撮影されるのでしょうか。数ヶ月経つとかなりの量のデータが溜まるのではないでしょうか。

石川さん:それはもう、かなりの量です。1回の撮影で1500枚くらいは撮ります。より良い写真を追求していかないといけないですしね。データ量となると……今はデジタル一眼レフカメラのキャノンのフルサイズデジタル一眼レフカメラ(EOS5DMMarkIII)を使っていますが、それで撮影すると写真データが1枚20~30MBあるので、1回の撮影で40~50GBに達しますね。案件が重なり、たくさん撮影しなければいけないときは、1ヶ月で500GB、2ヶ月で1TBまで達してしまうときがあります。カメラが最新になればなるほどデータが大きくなりますし、フィルム時代に比べると撮影枚数も格段に増えているので、ここ数年でデータ量は急激に増えています。

藤田:そのような大量のデータをどのように管理されているのでしょうか。

石川さん:8TBの外付けHDDを二つ使っています。過去5年分のデータが全て入っています。二つのHDDには同じデータが入っていて、1台は完全にバックアップ用です。写真は財産と同じ。納品するデータが万が一消失してしまったら仕事を失うことになりかねません。したがってバックアップは基本中の基本。ただ、どこに保存するのかが問題です。HDDにしているのは、今のところそれが安全で使い慣れているからです。以前は4TBのHDDを使っていましたが、容量がいっぱいになったので8TBに変えました。HDDを新しいものにする際は必ず、全てのデータを移し替えます。過去の写真を引っ張り出したいということもあるので、HDDが何個もあると、あの時のあの写真を取り出したいというときに、まずはどのHDDに入っているかを探さなければなりません。なのでHDDはむやみに何個も持たないようにしています。容量が限界にきたら、容量が大きいHDDを購入してデータを移し替えるという方法で全ての写真を管理しています。いまは、そろそろ8TBが限界になってきたのでさらに大容量の12TBを購入しようと考えています。
ちなみに、すべてのデータを新しいHDDに移し替える際、大量のデータを移すのでコピー中にエラーが起きないかは心配ですが、今のところ大きなエラーは起きていません。ただ、ファイル名の記載でバックアップが取れなかったことがあるので、機種依存文字や絵文字、「/(スラッシュ)」、また和文などをファイル名にするのは避けています。
一方で、クラウドで写真を保存されている方が多いと思います。一時的なバックアップとしてクラウドで保存するのは有効ですが、クラウドだけではかなり不安。万が一クラウドサービスが急に停止したりしたらデータが消えてしまいますし、サイバー攻撃も心配ですしね。それと、作業に不便。例えば、フォルダの仕分け方がサービスごとに違うので自分のやりたいようにフォルダ管理ができないのです。また、自分が扱っているデータが大量なので、回線を早くしないと送受信に時間がかかります。

2.データ管理の課題と理想の管理方法

藤田:おっしゃる通り、バックアップはとても重要。しかし、どこにバックアップするかは本当に重要ですね。現状、そのデータ管理で困っていることや不安なことなどありますでしょうか。

石川さん:2つのHDDの置き場所です。バックアップ用のHDDがあるのはいいのですが、両方とも自宅にあるのです……。これが問題。最近は災害が多く発生していますが、例えば地震でHDDがつぶされてしまったり、豪雨で家の床が浸水してHDDが濡れてしまったら、ぞっとしますね。これまで撮った“財産”が全て消えてしまう可能性もありますから。だから、安心して保管できる、どこか別の場所も考えています。それと、不便に思っているところが遠方撮影のとき。出張先でも写真のセレクトなどの編集作業は行うので、8TBのHDDを持っていきたいくらいです。でもさすがにそれはできないので、関連しそうな写真だけを別のコンパクトなHDDに入れて持ち歩きます。遠方撮影の際は連日の撮影となることが多いので、1日撮影したら取り急ぎそのHDDにバックアップを取ります。本当は、出張先でも過去の写真を全て閲覧できて、必要であれば取り出すことができたら理想ですけどね。クラウド保存だとそれが実現できますが、それに全て頼ってしまうのも心配なので。

藤田:なるほど、やはりバックアップ用のHDDの保管場所は重要なポイントですね。理想とするデータ管理方法は、やはり別置保管が鍵となってくるのでしょうか。

石川さん:そうですね。別置保管で1つ、バックアップ用で1つ、作業する用で1つ。この3か所で保管ができるといいですね。それと、過去の写真も時々参照したいので、検索もしやすい保管方法がいいです。そして保管媒体に関して、今はHDDを使っていますが、ただ、そのHDDも落としたら壊れてしまう可能性もあるので、そこの不安はあります。
また、撮影した写真は全て残しておきたいので、販売されているHDDの容量の上限にデータ量が達したらどうしようかなと思っています。その際は、HDDを新たに増設するか、またはDVDなどに焼いた後、HDD上から削除するなどしないといけないですね。

藤田:やはり”テータの保管”には、安全性や便利性が兼ね備わっている方法がいいですね。最後に、今後の展望などお聞かせください。

石川さん:最近は、地方自治体の仕事を増やしていきたいです。その土地の観光に繋がるような写真を撮ったり、雑誌やWebサイトなどの制作物を手掛けたりしたいです。これまで仕事をしていて分かったのですが、日本人は、日本の良さに気づいていない、そこで暮らしている人が、自分が住んでいる土地のことを知らないということが多いです。観光で人を呼びたいと思っても、その根幹部分を知らなければ伝えることができない。だから、写真を通して自分が住んでいる土地の魅力を知ってほしいし、そのことで街が栄えるきっかけになってくれたら嬉しいと思います。
最後に。やはり、写真は一期一会です。だから、過去に撮影したもの全て、本当に大事にしているし、それは絶対に守りたいデータです。早く理想のデータ管理方法を見つけて安心して仕事をしたいです(笑)。

まとめ

 写真のワークショップなどもやっていらっしゃるようですが、そのときに気づくのが、参加者の多くが「データが消える怖さ」を知らないということだそうです。データが消えて初めてそのことの深刻さに気付くということ。したがって、ワークショップでは撮った写真の管理の方法や、データのバックアップの大切さも伝えているようです。
しかし、重要となってくるのはそのバックアップの方法です。後編では、インタビューを踏まえ、安全・安心なデータ管理の方法を検討します。

【インタビュイー】
編集者・フォトグラファー
石川 望(いしかわのぞむ)
自転車雑誌「Bicycle Magazine」の編集長、「Bicycle Navi」の編集に関わった後、自転車と写真をテーマとした「Bicycle Photo Magazine」を立ち上げた編集者兼フォトグラファー。その他、自転車やアウトドア、アパレルブランドの写真撮影やWEB関連のディレクションも行う。日常では被写体もテーマも問わず35mmフィルムカメラを中心にした撮影をライフワークにしながら、自転車や旅をテーマとした写真ワークショップに関わる。H.I.S.プロデュースの「Cycling ana Phototrip~自転車と写真で楽しむ旅」のナビゲーター及び、ツアーでの写真講師を担当。
Instagram:@nozomui、Twitter:@nozomui
【インタビューアー】
藤田彩香(ふじたあやか)
情報資産管理マガジン事務局

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