【前編】地震だけが、災害じゃない!持続可能な社会を実現させるための対策は?

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 2010年代に入り、2011年3月11日に発生した東日本大震災に続き、熊本や北海道など、これまであまり一般的には問題視されていなかった地域でも地震が発生し、大きな被害が出ています。また、近年日本では、南海トラフや首都直下型地震の危険性が指摘されています。日本では地震に関して安全と言える地域はないことを、改めて認識させられます。
 そのため、企業が策定しているBCP(事業継続計画)※1も大半は地震対策に重点が置かれています。東日本大震災以降、今ではBCPを策定している企業は60%以上にのぼり、策定済みの企業が約27%だった約10年前(2008年)と比べ大幅に増えています※2。その内容もやはり大半は地震対策に重点が置かれています※3
 一方で、過去5年間の国の激甚災害の指定状況一覧(2019年11月1日時点)をみると、地震4件に対し、台風18件となっています。さらに、災害は地震や台風にとどまらず、津波、河川氾濫、土砂崩れ、火災、雷、竜巻、パンデミックと様々です。したがって、地震だけを想定したBCPでは十分とはいえません。各災害の特徴を把握し、それぞれに合った対策を策定しなればなりません。

 この記事では、前編と後編に分けて「組織のBCP」について考えていきます。前編では、それぞれの災害によって起こりうる被害の例を提示します。

※1:事業継続計画:「企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画」
中小企業庁ホームページより引用

※2:内閣府「平成30年2月企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」参照

※3:NTT経営研究所の調べによると、約74%の企業のBCPが地震を想定している内容となっている。(2019 年3月「東日本大震災発生後の企業の事業継続に係る意識調査(第5回)」)

1.災害大国ニッポン。起こりうる災害はいろいろ

(1)地震

 まず、オフィス内では、設備機器の落下やキャビネットの転倒、プリンターやPCの損傷、建物・設備に関しては、窓ガラスの落下やエレベータの故障、さらにはビルの倒壊などの可能性があります。
 従業員の安全管理や固定資産の保全に目が行きがちで、これらの想定はしていたとしても、情報資産を守る観点からは抜け落ちてしまいがちなことがあります。具体的には、棚に落下防止対策をしていなかったがために、書類が落下し散乱してしまった。また、転倒防止、耐震補強が未実施のため、サーバラックや複合機、あるいは、HDDが落下し損傷してしまった、などです。
 ここで注意しなければいけないのは、地震は、“地震だけではない”ということ。2次災害の危険も潜んでいます。東日本大震災では、地震後に巨大な津波が押し寄せ、多くの建物が流されてしまいました。加えて、原発事故も忘れることはできません。
 このとき被害を受けたのはもちろん、企業だけではありません。例えば病院では、紙のカルテが水浸しになり全て消失した、データを保存していたサーバが流され、バックアップをとっていなかった電子カルテのデータがなくなってしまった、バックアップ用のUSBが落ちてデータは駄目になってしまったなど、重要な個人情報がなくなってしまったという例もありました。また役場では、住民データを保管していたファイルサーバーが流されてしまった、水没により全てのデータを失ってしまったなど、業務の遂行が困難になったケースもありました※4

※4:「平成24年版 情報通信白書」参照

(2)台風

 記憶に新しいのが、2019年10月に発生した、台風19号。東日本を横断し、各地に多大な被害をもたらしました。この台風で特に問題となったのは、大雨による河川の氾濫や浸水被害です。多くの家やビルが浸水被害を受け、さらには長期にわたり、停電や断水といったライフラインまで絶たれてしまう事態となりました。
 栃木県内の企業では、自動車の部品を製造している工場が浸水被害を受け、製造ラインが止まってしまうという被害がありました。工場内で特に重要なプレス機や部品を加工する特殊な機械に水が入ってしまい、専門の業者が来るまで動かすことが困難となり、操業再開のめどが立っていないということでした。他には、通信系統の不具合により内外で各種データのやり取りができず業務が進まない、さらにはコンビニ、ドラックストア、スーパー、飲食店では、断水のため休業せざる負えない状況が発生しました※5

※5:下野新聞オンライン『SOON』 10月16日『栃木県内企業、製造ラインに浸水「操業再開めど立たず」』参照

(3)火山

 火山!?とあまりピンときていない方もいらっしゃるかもしれません。しかし、日本には桜島のように噴火が日常という活火山もあります。日本は、世界に占める国土面積が、0.25%しかないにもかかわらず、世界の約1割りを占める火山大国※6。国別の活火山数でいうと世界第4位※7!さらに、大規模な噴火の存在も忘れてはいけません。日本での破局噴火といえば、縄文時代まで遡りますが、当時のような破局噴火が今、九州で発生した場合、九州全域と山口県の全人口約1100万人が死亡してしまうとのことです※8。実はこの破局噴火。数万年に1回程度、という大きな数値ですが、サイクル的にはいつ起きても不思議ではありません。NHKの「カルデラ噴火! 生き延びるすべはあるか?」のコラムでは、「100立方km以上のマグマを放出するカルデラ噴火は、1万年に1回程度発生しています。数10立方km以上の噴火ならば12万年間に18回、つまり6千年に1回程度は「起こっている」ことに」なるそうです。そして、「これまで平均6,000年間隔で起こっていたカルデラ噴火が、最近7,300年間は発生していない」とのことです。
 人の一生で考えると、生きている間にそこまでの大規模噴火は想定しづらいことは確かです。ただし、そうだとしても、より小規模の噴火のリスクは考慮すべきでしょう。例えば日本のシンボルでもある富士山は、最後の噴火から約300年経過しており、いつ噴火してもおかしくないと言われています。噴火した場合、2004年の内閣府発表のハザードマップによれば、首都圏で最大10センチの火山灰が積もる恐れがあると言われています。多くても10㎝?と意外と少なく感じる方もいるかもしれませんが、送電線に灰が付着し雨が降れば、漏電して停電を引き起こす恐れがあります※9。また、水源地に火山灰が降り注げば、その影響で給水ができなくなり、約200万人前後が水道を利用できなくなると想定されています。
 さらに交通網の麻痺も生じます。例えば2010年に起こったアイルランドの火山噴火では、火山灰の影響により空港が一時封鎖される事態に陥りました※10。飛行機だけではなく、電車や車も同様、火山灰がエンジンに吸い込まれたら動かなくなってしまいますし、火山灰が積もることにより線路や道路も封鎖されてしまいます。
 もちろん、企業や自治体、病院などの重要データも例外ではありません。例えば、火山灰が電子機器の内部に侵入すると、誤作動や故障などのトラブルを引き起こし、その中に保存していたデータはなくなってしまう可能性があります。重要なデータをデータセンターで管理していたとしても、内部でファンを回しているデータセンターにはどうしても火山灰が侵入してしまい、各種設備が機能しなくなる可能性があります。ICTは火山に対しては、まだまだ十分な対応ができていないといえるでしょう。

※6:内閣府ホームページ 防災情報ページ『わが国の火山災害対策』参照

※7:東京海上研究所発行 ニュースレター『SENSOR』 No.42「日本における火山噴火リスクと防災情報」(2018年12月)

※8:オピニオンサイト『iRONNA(ironna.jp)』記事「1100万人が数時間で全滅! 日本人が知らない「破局噴火」の恐怖(早川由紀夫(群馬大教授)執筆)」参照

※9:平成14年3月「内閣府の富士山噴火による被害想定調査報告書」

※10:『日本経済新聞』2010年4月18日「空港閉鎖、欧州ほぼ全域に アイスランド噴火」

(4)パンデミック

 「パンデミック(Pandemic)という言葉のもともとの意味は、地理的に広い範囲の世界的流行および、非常に多くの数の感染者や患者を発生する流行※11」を意味します。2009年4月、米国やメキシコ周辺で豚が感染するインフルエンザウイルスに数百人が感染し、世界に瞬く間に広がった新型インフルエンザ騒動は覚えていらっしゃるでしょうか。このとき日本は島国である特性を活かし、感染の疑いのある人を入国審査で厳しく検疫する「水際対策」に力をいれていました。しかし、水際対策だけでウイルスの侵入を完全に妨げることはできず、日本で初患者が出た際には、“未知への恐怖”として、日本が混乱の渦に巻き込まれていきました※12
 では、今後また新型インフルエンザが大流行した場合、どのくらいの被害になるのでしょうか。政府広報オンライン コラム『暮らしに役立つ情報』の記事「新型インフルエンザの発生に備えて~一人ひとりができる対策を知っておこう」(2018.11.08)によれば、発症率は人口の25%、医療機関受診患者数は1,300万人~2,500万人、さらに従業員の最大40%程度が欠勤(約2週間程度継続する見込み)とのことです。このような大流行となると、医療機関での患者の対応が困難になったり、また多くの従業員の欠勤により社会機能がストップする事態が発生します。在宅勤務が進みつつあるため、一般の事業会社では業務への影響は軽微に抑えられるという声もあります。とはいえ、交通機関やデータセンターなどの社会インフラ自体の事業継続ができないという可能性もあります。

※11:国立感染症研究所 Webサイト 感染症情報センター「インフルエンザ・パンデミックに関するQ&A」より引用

※12:内閣官房webサイト 新型インフルエンザ等対策「2009年新型インフルエンザ―「未知の感染症」をどのように報じたのか?―」日本経済新聞社 編集局社会部次長 前村 聡

まとめ

 上記のように、起こりうる災害は決して一つではなく、あらゆる災害が想定されます。したがって、地震対策のみに重点を置いたBCPでは十分ではありません。
 後編では、前編を受け、BCPの内容について検討するうえで大切なことは何かを考えていきます。

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