【寄稿】税法による帳簿・書類・電子取引記録の電子保存-厳しい「掟」は過去の話、税務調査もスピーディに

【執筆】長濱 和彰(SKJコンサルティング合同会社/代表業務執行社員)
コラム
ビジネス

プロローグ

突然ですが皆さん、国民の三大義務をご存知でしょうか? 憲法では「教育」「勤労」「納税」を国民の三大義務としています。言い換えれば、「勉強して、仕事をしっかり勤めて、その稼ぎで税金を納めなさい」ということです。このように「納税」は国や行政を維持するために、大切な義務とされています。このため、我々国民は所得税や住民税を確定申告することになります。企業も同様で、法人税や消費税、地方税などの各税法の定めに従って、申告納税することになっています。その際に、申告した内容が適正であることを証明する根拠として、その期間の帳簿と取引関係の証拠書類、及び電子取引の記録を7年~10年間、納税地で保存することが税法で定められています。

納税は大切な義務とされますから、会社自ら申告して納税する原則に加えて、税務署は必要により企業を訪問し実地調査(「税務調査」)を行って質問調査する権限を持っています。通常1週間がかりで行われる税務調査は、詳細かつ厳密で、疑義が出た場合には取引相手に対して事実確認(「反面調査」)したり、銀行口座の入出金まで調査(「銀行調査」)する権限があります。このため経営者が「今期は利益が出過ぎてしまったので経費を水増しして取引先に預けておこう」等の悪知恵を働かせたとしても、たちまち見破られます。悪質な場合には、会社に重加算税が課され、社長個人が刑事訴追されるケースもあるのです。つまり税法違反は刑法違反に相当する悪質行為とみなされるのです。窃盗や詐欺と同様で、決して行ってはなりません。

とはいえ正直に告白しますが、著者自身も現役営業職時代に、税務調査で違反が判明し、厳重注意の社内処分を受けた前科があります。期末近くで交際費が不足したため、本当はお客様との「接待交際費」(交際費課税)にもかかわらず、お店のママに領収書の人数水増しをお願いして「社内会合費」(経費扱い)で処理していました。数年後の税務調査で判明し、全社に公表されるという辛い経験があります。現在は、税務調査に加えて内部告発される時代になりましたから、悪事は必ず判明します。

著者の行った行為は論外として、大部分の企業は税理士の先生方による指導や確認を経て適正な申告納税が行われているはずですが、この税務申告が適正であることを裏づけ証明するための第一証拠として、当該期間の国税関係帳簿、国税関係書類、電子取引記録を、書面として整然と編綴製本し、納税申告後7年~10年間に渡って保存することが税法で定められています。例外的に紙書面以外の方法、即ち電子データやスキャナ保存する場合の要件は、電子帳簿保存法(以降は「電帳法」)で詳しく定められています。また近年急激に増加している紙書面を始めから使わない電子取引の記録保存要件についても、電帳法で定められています。

今回は、これら税法で定められた帳簿・書類・記録の保存について、紙の書面ではなく電子データやスキャナ保存する場合の「掟」について、なるべく解り易く説明します。

国税庁は2020年度からの電子納税申告義務化に合わせて、企業に対し「帳簿書類の電子データ保存を行ってほしい*」と表明していますので、電子保存への移行は今がチャンスなのです。

*国税庁パンフレット「はじめませんか、帳簿書類の電子化」、「はじめませんか、書類のスキャナ保存」参考

1.対象となる「国税関係の帳簿・書類・電子取引記録」とは?

企業が保存する文書や記録は、事業領域や事業規模によって各社各様ですが、専門事業に関する記録類は別にして、一般的に共通する記録類としては、大きく6種類に分類できます。

企業が保存記録する代表的な書類・電子記録

この中で主に②③④の全てと⑥のなかの取引関係の電子記録が、申告納税した後に「国税関係」の形容詞がついた帳簿・書類・電子取引記録となり、以降7~10年*に渡って納税地での保存が義務となるわけです。

*納税申告以降7年間保存、欠損繰越している企業は最長10年間保存となる。厳密には4月に受領した請求書等は3月決算では最長11年4ヶ月保存が必要。

2.保存対象の記録類は意外に広範囲に及ぶ

保存対象とされる「国税関係書類」の範囲は、想像以上に広範囲に及びます。例えば「取引先から受領した見積書」の場合、発注に至った見積書の外に、同一案件で入手した他社からの見積書は、たとえ発注に至らなかったとしても保存対象と考える必要があります。なぜなら、複数の取引先を比較し合理的な品質・価格・納期で設備投資したことを証明する証拠書類となるからです。また工場設備等に掛かる固定資産税は取得価格に対して稼働月から減価償却費を計上するため、固定資産台帳だけではなく、個々の設備投資額が判明する技術資料や稼働記録簿なども証拠資料として保存対象となります。その他、金融機関や生損保、リース・クレジット企業では、顧客から定型様式の契約申込書や口座振替依頼書、本人確認書類等の膨大な書類が「事務センター」に保管されていますが、これらは「国税関係書類」に指定されています。このように業種にも依りますが、企業の保存文書の50%~70%は「国税関係書類」と言われるほど膨大なのです。

3.保存していなかった場合のペナルティは、相当重い

ではこれらの国税関係の帳簿・書類・電子取引記録の保存がルール通り行っていなかった場合のペナルティは、どうなるのでしょうか。最も悪質なケース、例えば経営者が税務調査の前に意図的に廃棄したり、サーバ情報を消去させたケースでは証拠隠滅の罪に問われることになります。不注意によって電子データ保存やスキャナ保存要件が満たされていなかった違反でも、再発累犯の場合には連結納税の承認取消しや青色申告の承認取消し、電子帳簿保存の承認取消しなど、企業の存続を危うくする行政処分を受ける可能性があります。軽微なケース、例えば数年前の電子メールによる取引情報がメールソフトによって自動消去されてしまった場合などでは、改善指導を受けることになります。

即ち税務調査で保存義務に違反する行為が判明した場合には、経営者の皆様は「知らなかった」では済まされない、意外と厳しい処分を受ける可能性があることを理解してください。

それでは帳簿・書類・電子取引について、紙の書面ではなく電子データで保存する場合のルール(「要件」)について説明しましょう。

税務記録の種類と電子保存する方法

4.帳簿や自社が発行した書類控の電子化ルールは、意外に簡単

月次、半期、そして本決算ごとに作成される帳簿類;仕訳帳、総勘定元帳、売上帳、仕入帳、得意先元帳、固定資産台帳など(これを税法では「国税関係帳簿」と定義しています)を紙書面台帳から電子データ保存に切り替えることは、意外に簡単です。

また自社が発行した見積書、注文書、請求書などの控書類(これを税法では「自社が発行した書類の控」と定義しています)についても、紙書類保存から電子データ保存に切り替えることは、上記の帳簿要件よりもさらにシンプルで簡単です。

企業は規模や業種を問わず、自社開発システム又は既製品の市販会計ソフトやクラウド会計システムを利用して、電子的な経理処理を行っています。また自社で毎月発行する見積書・注文書・請求書などについても、コンピュータから出力され取引先に送付されると同時に、経理システムの記憶装置に電子記録されています。

これらを紙書面に出力して、費目や書類別に年月順に整然とファイルして7年~10年間納税地に保存することが税法の「掟」ですが、元々コンピュータで作成した帳簿や書類ですから、帳簿は以下の6要件、書類は①と②を除く4要件を満たせば、紙に出力せず電子データで保存可能です。この方がはるかに効率的で安全です。

国税関係帳簿・書類の電子データ保存の要件

この要件の内①~④は、JIIMA*1 が要件適合性を認証した市販ソフトやクラウドサービスを使用すればクリアー出来ます。また2019年度からJIIMA認証システムを利用する場合には、税務署への申請⑥も簡略化される*2ことになっています。なお自社システムで対応する場合でも、JIIMAの認証審査ホームページで帳簿書類の作成・保存に必要なシステム要件の記述書が認証基準として公開*3されていますので、システム開発時の確認や検証に用いることが出来ます。

*1)JIIMA;公益社団法人日本文書情報マネジメント協会
*2)国税庁「令和元年度税制改正による電子帳簿保存制度の見直しの概要について」
*3)JIIMAホームページ→認証→電子帳簿ソフト法的要件認証→認証製品一覧/認証を受ける方へ→認証基準が公開されている

その結果、企業が検討準備する要件は⑤経理規程などの社内規程の整備と⑥税務署への承認申請の2要件だけとなりますが、⑥は税理士に委任することが出来ます。

このように会計帳簿や自社が発行した書類控の電子化は、意外に簡単に実施可能となっています。国税庁は企業に対して電子納税申告を義務化する方針*ですから、会計情報の入力から電子申告、そして保存まで一気通貫で電子データ化することで経理業務の効率化と社内コンプライアンスの水準向上が実施できるでしょう。加えて税務調査に対応する面でも、企業の負担が大幅に軽減されることになります。

なお電子データ保存に切り替えた場合、納税地でディスプレイやプリンター出力できればOKで、サーバの設置場所についても納税地外でも問題ありません。

*資本金1億円以上の法人は2020年度(2021年5月末)の納税申告から電子申告が義務化される。政府は1億未満の企業も漸次、電子申告を義務化する方針。

5.書面で受領した証拠書類のスキャナ保存要件も、大幅に規制緩和

国税関係書類の中で、取引先から紙書面で受領した領収書や請求書、契約書等の証拠書類(「原始証憑」ともいわれます)をスキャナ保存して、原本を廃棄するためには、以前は「岩盤規制」とも言われた大変厳しい要件が課されていました。脱税は刑事裁判となるためスキャナ保存した電子データには、裁判で有効な原本相当の証拠性が求められたためです。しかし電帳法施行10年を経ても、過酷すぎる電子化要件のためスキャナ保存の累計申請件数が100件程度に留まっていたため、規制改革会議で「日本は電子化ガラパゴス」の批判が高まり、国税庁は2015年から大幅な規制緩和を開始しました。最新(2019年)の証拠書類スキャナ保存要件は、以下の9要件です。

受領した証拠書類のスキャナ保存要件

規制緩和されても上記9要件は、まだまだ厳しいと思われるかもしれませんが、会計帳簿の認証ソフトと同様に、JIIMAが要件適合性を認証したスキャナ保存ソフトや経費精算クラウドサービスを利用すれば①~⑥要件はクリアー出来ます。また2019年改正でJIIMA認証システムを利用する場合には、税務署への申請⑨も簡略化されることになっています。なお自社でシステム開発する場合には、JIIMAの認証審査ホームページでスキャナ保存ソフトに必要な仕様要件の記述書が審査基準として公開されています* ので、自社での確認や検証に用いることも出来ます。

*JIIMAホームページ→認証→電帳法スキャナ保存ソフト法的要件認証→認証製品一覧/認証を受ける方へ→認証基準が公開されている。

その結果、企業が主体的に検討しなければならない要件は、⑦内部統制に基づいた事務処理要件を構築すること、⑧スキャナ保存運用規程等の内部規程を整備すること、以上の2要件だけになります。

事務センターや工場の片隅に膨大な税務書類を保管している企業の皆様、2019年の規制緩和で過去に受領した税務書類のスキャナ保存も認められることになりましたから、安心して原本管理の重圧から解放されましょう。費用の節約や税務調査への効果だけではなく、内部統制運用ルールの適用によって無駄な経費削減や不正使用の抑制など、組織効果も絶大です。

6.電子取引にも記録保存の義務と要件がある

最近は企業でも電子取引の利用が普及しています。例えば文房具や備品をアスクルなどのECサイトから購入する、見積依頼から領収書に至る取引プロセスを電子メールと添付したPDF文書の交換で行う等は、ごく普通に行われています。また印紙税を節約する狙いもあって建設業界や不動産業界では、企業対企業で電子契約を締結するケースが広がっています。これら紙書類を使わない電子取引についても、あまり認知されていませんが、その記録を7年~10年間納税地で保存すること、及びその保存要件がしっかり電帳法で定められています。事前に税務署へ保存承認を申請する必要はありませんが、罰則については同様に適用されますので、経営者や経理部門、情報管理部門の皆様は、ご注意をお願いします。

電子取引記録の保存要件

最近の税務調査では、冒頭の概況調査でどのような電子取引が行われているか、その取引記録はどのように保存されているか等、質問を受けるケースが普通です。また調査官から求められた場合には、取引関係電子メールの閲覧を拒否することは出来ないことにも、御注意下さい。

7.電子メールの取引情報保存をどのように対応するのか

取引関係の電子メールを、添付書類を含めて保存を義務づけた法律は電帳法だけではありません。関税法でも、輸出入に係る取引書類を電子メールで交換した場合には、輸出入許可日の翌日から5年間保存を義務づけられ、保存要件は電帳法に準ずるとされています。海外取引を行う企業の皆様は、この点にもご注意ください。

ところで、実は電子取引の記録保存要件を完璧に満たす市販のメールソフトは、著者の知験の範囲では存在しません。その理由は20年もの昔に遡ります。電帳法第10条「電子取引の保存」が追加されたのは、20年前になりますが、この時代の電子取引は、いわゆるEDI取引(特定企業間でのデータ交換取引)が中心で、電子メールはまだ黎明期でした。このためEDI取引では取引記録データベースからCSVファイルで検索することが普通に行われていたため、これを前提に電子保存要件が決められたと思われます。今日では企業規模に関わらず、見積依頼から領収書送付に至るまで、電子メールとPDF添付書類の交換で取引を進めるケースが普通になっていますが、添付文書に記載された金額や日付の範囲指定検索は、コンテンツ内容そのものに含まれる情報であり、一般的な電子メールソフトでは内容まで検索する機能がありません。別に専用のメールアーカイブソフトが必要になります。

また保存期間についても、市販のメールソフトは記録容量に制約され、税法要件の7年~10年(最長は11年4ヶ月)の保存期間をユーザ側で設定できる機能は見当りません。このため要件を満たす自社独自のメール保存ソフトやメールアーカイブソフトを導入する必要が生じますが、中堅以下の多くの企業では対応が難しいのが現実ではないかと思います。

著者は電帳法第10条の電子取引記録の保存要件については、取引実態に応じて改正する必要があると考えますが、法は法ですからとりあえず暫定的な実務対応として、電子メール保存については以下の措置を講ずることをお勧めします。

取引関係の電子メール保存の注意点

エピローグ

政府は2020年度の法人税や消費税の税務申告から電子申告の義務化を決定しました。その決意は相当強く、今後は「紙書面による申告は無効とされ無申告加算税の対象になる」としているほどです。これに合わせて国税関係帳簿の電子データ保存や証拠書類のスキャナ保存を積極的に行うように呼び掛けています。

その背景には、政府としては税務調査のコンピュータ化、さらにAI化を進め、限られた国税調査官の定員内で調査効率を向上させたい意向と、企業側での税務コンプライアンス意識を向上させたいとする、二つの意向があると思います。取引の開始から税務申告まで一貫して、ルールに準拠した適正な電子帳簿保存を行っている企業は、税務コンプライアンスの高い企業として認め、調査日数の短縮化や調査間隔の延長などが行われるのではないかと考えられます。逆に問題あると認識した企業は、重点的に調査されることになります。

2019年10月から消費税が改訂され、標準税率(10%)と軽減税率(8%)の複数税率制度に変更されます。これに伴って消費税の仕入税額控除の方式として、「適格請求書保存方式」が導入されます。2023年10月からは、取引の結果と適用税率や消費税額を正確に伝える手段として「適格請求書」の発行と保存が、販売側(発行控)も購入側も義務化されます。この機会に、帳簿書類の電子データ保存、証拠書類のスキャナ保存をぜひご検討下さい。

残る課題は、電子メールです。法律上、電子メールは準文書と解されますから、文書管理規程と同様の社内管理規程を設けて、しっかりと管理する必要があります。またセキュリティ面でも、企業で使用される電子メールは、利便性と危険性が表裏の関係にあり、情報漏洩やビジネスメール詐欺など被害も多発しています。

電子メールについて、追加費用をあまりかけず危険を回避しつつ、適正に運用してゆく必要があります。このテーマについては、近くレポートする予定です。

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