磁気テープの保存方法
―事務所保存から専門施設保存へのすすめ

コラム
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大切なデータを磁気テープで長期保存する場合のキーポイントについて説明します。

長期保存に使用できる磁気テープの保存環境は、データセンタ・コンピュータ室を前提としています。自社の事務所や倉庫部屋などでは通常その要件を満たすことは困難であり、経年劣化が進むので、長期保存環境条件を維持した専門施設での保存をおすすめします。

1.磁気テープは保存していても読めなければ意味がない

データ保存の使命は、当然、保存期間中に、その内容を参照し、利用できるようにしておくことです。「保守作業をしたい、証拠提示したい、再利用したい。」などの目的があり保存します。磁気テープの保存環境仕様を認識していないと、「事務所の鍵のかかるキャビネットで、安全に保存していましたが、データは読めませんでした。」という状態になってしまっています。つまり、磁気テープカートリッジという物理的な形は盗難にも合わずに残っていますが、磁気テープ自体は経年劣化が進み、いざ読みだそうとしても論理的に"0101“と読み出せず、データとして利用できない状態になってしまいます。

事務所での保存とは別ですが、データを読み出すためには、当然、保存している磁気テープを読み出せるドライブを保有していることが必要です。ドライブ自体も経年劣化、故障がありますので、買い替えが必要になります。磁気テープの高密度化に合わせて、ドライブの世代が上がり、新しい世代のドライブでは過去の低密度記録の世代の磁気テープは読み出せなくなります。継続してデータを読み出せるようにしておくためには、読み出せるドライブが販売・保守されなくなる前に、保存している磁気テープのデータを新しい世代の磁気テープに書き換える「マイグレーション」を行う必要があります。

2.データの保存に使用できる磁気テープの見分け方

磁気テープは種類によって、①バックアップ用と②バックアップと保存共用の2通りがあります。データ保存に利用できるのは、「バックアップと保存共用」のものです。磁気テープメーカーのサイトで仕様を確認して頂ければ見分けがつきます。仕様に「保存年数」があれば「保存」にも使えるものであり、この仕様がないものはバックアップ用にのみ使用できるものとなります。この仕様の明記がないものはメーカーとして保存用途に販売する意図がないと考えられます。4mmデータ・カートリッジDDS、DATなどはバックアップ専用のもので、保存にも使える代表的なものは、LTOです。

3.磁気テープの保存方法

テープの種別、メーカーにより若干の差はあるものの、磁気テープに関する一般的な事項を確認するにはJEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)のテープストレージ専門委員会のサイトがおすすめです。JEITAテープストレージ専門委員会では、2006年からサブワーキンググループを設け、2009年、2013年、2019年に、各社のLTOテープを持ち寄り、寿命評価の報告をしています。メーカー内の評価と違って他者が評価するものであり、信頼性が高いといえます。

表1に、LTOの長期保存環境条件を、表2に寿命評価結果をまとめます。

表1 LTO長期保存環境条件

項目仕様
温度16~25℃
湿度20~50%RH(結露しないこと)
最大湿球温度26℃

表2 JEITAテープメディア寿命評価結果
(出典 JEITA磁気記録媒体標準化専門委員会、テープストレージ専門委員会 2009年、2013年、2019年報告*)

評価結果報告年評価対象推定寿命(25℃にて)加速試験条件
2009年LTO319.1年55℃80%RH(高温・高湿)
2013年LTO520年以上55℃80%RH(高温・高湿)
2019年LTO750年以上70℃80%RH(高温・高湿)
70℃10%RH(高温・低湿)

*JEITA磁気記録媒体標準化専門委員会「データテープメディア寿命評価」2009年、JEITAテープストレージ専門委員会「LTO5データテープメディア寿命評価」2013年、JEITAテープストレージ専門委員会「LTO7テープメディアの寿命評価」2019年


この寿命評価結果は、推定寿命値であり、保証はしていないことを認識しておく必要があります。また、この寿命評価結果に対するJEITAの見解は、“システムの保証期間、OS及びソフトウェアの互換性等を考慮すると、安全かつ安心して、一つの媒体にデータを保管する目安は10年と考えられ、10年以上の長期保管をする場合はJISZ6019 「磁気テープによるデジタル情報の長期保存方法」を参照し、データを適切に移行(マイグレーション)することを推奨する。” (出典 JEITAテープストレージ専門委員会「LTO7テープメディアの寿命評価」2019年、17ページ)であり、磁気テープ単体では10年と考えるのが妥当です。

なお、LTO7から材質が変わりました。LTO6までは、高温高湿で寿命が短くなっていたのですが、LTO7からは高温低湿でも寿命が短くなり、乾燥しすぎも寿命を縮めます。

4.磁気テープドライブの下位互換性

LTOドライブの製造が続いたとしても、LTOドライブの場合は、媒体の高密度化に伴い、再生は最新世代の2世代前までとなります。例えば、今、LTO7で記録した場合、10年後にデータを読もうとすると、10年後にLTO9ドライブが販売・保守されている必要があります。このような状況ですので、20年、30年媒体を物理的に保存しても、データは読み出せないと考え、マイグレーションを行わない場合は、LTOの保存年数は10年までとするのが妥当でしょう。

なお、テープメディア/テープドライブの互換性の資料については、2013年にJEITAでも公開しています。

5.データテープカートリッジの取り扱い

データテープカートリッジの取り扱いについてJEITAで公開しています。その中で特に留意が必要なのは、①カートリッジが精密部品からなる商品で落下等の衝撃に弱いこと、②ゴミ・ホコリ(塵埃(じんあい))を避ける必要があることです。このうち、②ゴミ・ホコリ(塵埃(じんあい))については、見逃しがちです。

テープの構造から説明します。最新のLTOのテープの厚さは6μm以下です。テープ幅は12.65mmで、LTO8では、この幅に、6,656本のデータトラックがあり、トラック幅はわずか数μm程度です。このため μm(千分の1mm)単位の塵埃(じんあい)粒子も記録・再生に影響を与えます。カートリッジの保管ケースにて保存することが推奨されていますが、それだけでは十分でないケースもあるかも知れませんので、塵埃(じんあい)の少ない環境での保存が重要です。

6.事務所保存における盲点

LTOの場合、そもそも温度を25℃以下にしておく必要があります。クールビズ活動もあり、室温25℃以下は事務室では困難な環境です。土日祝祭日、さらには夏の長期連休中にエアコンを停めると、さらに実現が困難になります。また、湿度管理は一般のエアコンでは制御しきれないでしょう。長期保存環境条件から外れた分だけ、保存しているテープの寿命が余計に短くなっていきます。

さらに磁気テープは、塵埃(じんあい)、ガスを嫌います。塵埃(じんあい)と言ってもカートリッジの隙間から侵入する微細なμm単位のものです。一般事務所のプリンターのトナーの粒子は、5~20μm、医療現場のバリウムは乾燥すると細かい粒子になり、0.1~5μm、PM2.5は、2.5μm程度の粒子です。バリウムは粘着性があり、いったんテープに付着すると取り除くことが困難になります。身の回りに割と微細な塵埃(じんあい)が浮遊していることに気づいていただけましたでしょうか。

まとめ

事務所環境で、磁気テープの長期保存環境を維持することは困難です。そのため、以下の3点をおすすめします。

  • 磁気テープの保存は、正副2本以上作成し、長期保存環境条件を維持した専門施設*で保存する。BCP対策(事業継続計画)としては、施設は離れた2箇所以上を利用する。
  • 磁気テープ単体での保存は10年までとし、それを超える保存を行う場合は、マイグレーションを行い新しい世代の磁気テープに移し変える。
  • 保存している磁気テープの参照頻度が高い場合は、保存用とは別に、参照用磁気テープを作成し、事務所では、参照用磁気テープを利用する。(参照用の媒体を作成し、利用する手法は長期保存で知られるマイクロフィルムではJISで定められているオーソドックスな手法です。)

*長期保存環境条件を維持した専門施設の選定基準としては、JIIMA「文書情報マネジメントセンター サービス・ガイドライン」(2013年)が参考になります。このガイドラインでは、磁気テープなどの情報資産を保管するための施設について、設備(空調や防災設備など)のほか、立地(地震・水害の影響など)、建物(堅牢性・耐久性といった構造など)などの観点から指針が示されています。

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